続 丹波包丁日記 〜海老芋雑煮〜
正月の祝い膳に、無くてはならないものといえば、お雑煮だろう。
元日に、餅入りのカップ麺を食べる若い夫婦や独身の肩もいるだろうが、
一般家庭では、今でもほとんどの家でお雑煮を祝うのではないだろうか。
このお雑煮、地域によって様々なのは誰でもご存知のはずだ。
九州のアラ(ハタ、クエ)の雑煮、讃岐の白味噌に餡餅入りの甘い雑煮、
北国の寒鰤(ブリ)、鮭やイクラの入った雑煮、関東の角餅の清まし雑煮など郷土色豊かなものばかりだ。
ここ丹波では、白味噌の出しに焼いた丸餅を入れて、鰹節と青海苔をかけたシンプルなお雑煮が
普通だが、となりの京都では、これに金時人参や椎茸、堀川牛蒡などを入れたりする。
さらに、一家の家長や長男には、頭芋(かしらいも)という大きな親芋炊いたのを入れる風習がある。
これは、人の長になるようにという願いが掛けられている。ここで大変なのは子供である。
長男であるがために、子供の拳くらいもある大きな芋を三が日食べさせられるのである。
お断りしておくが、毎日新しい芋を三日間食べるのではない。
新しいのは元旦だけで、後の二日間は、歯形の付いた前日の残りをお雑煮に
入れてもらって三日間ありがたく頂くのである。
京都を代表する料亭の御主人が、子供の時に、本当はこれだけは嫌だったと言われていた。
頭芋は、家長や長男だけの特権なので、ほかの人は食べられない 。
(別に食べても罰は当たらないと思うが。)そこで白味噌に丸餅が入る丹波や京風の雑煮に、
海老芋を入れた「海老芋雑煮」はどうだろうか。
海老芋とは海老のような曲がった形をした芋で、冬の京野菜の代表格。
一般の芋よりも高価だが、きめ細やかでねっちりとした味わいはさすがだ。
この芋の皮を厚く剥き、米のとぎ汁か糠を入れた水で湯がいてから出しで薄味に炊いておく。
大きければ食べやすい大きさに切って、小ぶりならばそのまま丸ごと入れてもよい。
もうひとつ、奥の手ともいえる海老芋雑煮を紹介する。炊いた海老芋を油で
表面だけでさっと揚げてお雑煮に入れる。これは味噌仕立てではなくて、お澄ましでもいける。
生の三つ葉を散らして、上から煮えばなの熱い出しをかけて召し上がれ。
料理屋風にするなら、薄葛を引いた吉野仕立てか、蕪をすり下ろして葛餡に溶いた
霙仕立ての出し汁を張り、唐墨かコノコをあぶって柚と共に盛り付ければ立派な正月の煮物椀になる。
これが懐石の華といわれる煮物椀の真髄。喉も腹も鼻腔も潤せて、よき酒の肴となる。
これぞ口福(幸福)の味わいなり。
写真・文章
丹波市山南町にある日本料理・スッポン料理の
お店「茶寮ひさご」店主 真鍋馨様ご提供
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