続 丹波包丁日記 〜紅葉鯛〜
猪肉を「牡丹」と呼ぶのは「牡丹に唐獅子」から。馬肉を「桜」と呼ぶのは、
「咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」という里謡の歌詞からきている。
では、鹿のことを「紅葉」と呼ぶのは、なにも花札の鹿と紅葉の絵柄からではない。
これは、百人一首の「奥山に紅葉ふみわけなく鹿の声聞くときぞ秋は悲しき」
という一首からきている。ちなみに、魚で紅葉といえば誰でも「紅葉鯛」を思い浮かべる。
春の「桜鯛」よりも鱗が赤味を増して、皮をはぐと見事なもみじ色の鮮紅色が現れる。
春の桜鯛は産卵前で、雌は卵巣が肥大する為に、味わいが少々差し引かれることがあるが、
晩秋の頃の紅葉鯛は、脂の乗りも上々で、上品さと濃厚さを兼ね備えた、
品格のある味わいを持つ。
天然の紅葉鯛が手に入ったら、やはり刺身にして食べるのが一番だろう。
平造り、そぎ造り、細造り、薄造りと多様に包丁を入れる。
割山椒か赤絵の向付きにでも盛り付ければ、誰も文句を言うまい。
今回は乾山写の楓皿と魁の赤絵鉢に盛り付けた。膳上に、この紅葉鯛の刺身の
鉢一皿があるだけで、格調高い雰囲気をかもし出す。
生山葵をちょいと身に付けてから、土佐醤油にくぐらして食す。
美味い旨い。弾力のある身から旨味がじわっと滲み出るようだ。
昆布や〆や薄作りにして、柚子醤油かポン酢醤油で食べても気が利いている。
こんな旨い肴があれば、なおさら酒がすすむというものだ。
「林間に酒を暖めて紅葉を焼き・・・」
上酒を口に含めば、目の前に紅葉がなくとも紅葉を想像できる。
写真・文章
丹波市山南町にある日本料理・スッポン料理の
お店「茶寮ひさご」店主 真鍋馨様ご提供
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