続 丹波包丁日記 〜 秋鮎 〜
うちの店では夏から秋までは、地元川代渓谷の篠山川の天然鮎をつかっている。
ここの天然鮎は、漁の解禁が、日本一と言っていい位遅い。
となりの播州の滝野町の闘龍灘は解禁が5月1日で、全国一早いのに、
川代の鮎の解禁は7月10日頃なので、なんと70日もの開きがある。
鮎という魚は、別名を香魚といい、その名が示すように鼻を近づけると
胡瓜やメロンのような香りがする。
また鮎は年魚ともいい、稀に年を越す鮎もいるそうだが、普通は1年でその短い生涯を終える。
鮎といえば、その姿や季語から夏だけのものと思いがちだが、実は早春から
晩秋まで料理屋では鮎を使う。鮎は、早春の「氷魚」と呼ぶ稚魚に始まり、
青葉の頃の「若鮎」、そして入梅から盛夏にかけて鮎はまさにピークを迎える。
涼風そよぐ秋になると、腹いっぱいに卵をかかえた「子持ち鮎」となり、やがて卵を産み終えて、
晩秋には「落ち鮎」となって一生を終えるのである。
川代の篠山川も、この夏は渇水で水位が低下して、このところ1ヶ月近くも漁が出来ないと、
お世話になっている鮎捕り名人も嘆いていたが、秋の台風でやっと水位が回復した。
先日、久しぶりに鮎捕りの名人から「大漁やでー」という電話が入った。
1ヶ月ぶりに対面した川代の天然鮎は、大物揃いで、解禁の頃に比べて倍以上に大きく成長していて、
腹にいっぱいの卵を抱えていた、子持ち鮎は、塩焼きもよいが照焼、山椒焼にしても気が
利いていて美味いものだ。
これが卵を産み終えた後の落ち鮎になれば、うろこも立って皮も硬いので、白焼きにしてから
じっくりと山椒煮するとよい。
鮎は今や養殖物が主流で、天然物は、一般にはなかなか手に入りにくいが、生まれ育った川の
個性的な味が生きるのは天然ならばこそだ。
写真・文章
丹波市山南町にある日本料理・スッポン料理の
お店「茶寮ひさご」店主 真鍋馨様ご提供
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