ファンドとボランティアによる古民家再生事業の報告
(丹波古民家再生プロジェクト 第1棟目 丹波篠山の物件改修及び売却を終えて)
古民家再生の意義
仮に「やくら」と「立町の町屋」が単なるリフォームだったとすると、こんなに注目されまた、多くの人々が関わることがなかったと思います。実験的に修理し完成した「やくら」の暮らし振りを覗き見に来られる方は後を絶ちません。
皆さんの興味は、再生方法から暮らしへと広がっています。古民家ブームと言われて久しく関心の高さは依然続いていますが、このままブームで終わらす訳にいきません。今回は、両建物の再生で見えてきたことを少しお話したいと思います。
景観は万人の財産
ひとつは、景観は間違いなく「万人の財産」だということです。当然、個々の家をどう触ろうと自由ですが、景観は共有財産で勝手な趣向でまちなみを乱すようなことは、慎むべきだという共通認識を多くの皆さんが持つようになりました。これは、今事業の最も重要で大きな成果です。怪しげな活動に当初燻しがっていた地域の人も、取り組む姿勢の真摯さの向こうに大事なものが見えてきて様相が一変しました。また、古民家再生事業に参加してくれた人の中には、日本の原風景を思い起こし懐かしながら作業する人たちがいます。また、古民家に新しい魅力を感じている人たちがいます。篠山のまちに暮らしながら、魅力に気付かず外部の働きで目覚めた人たちがいます。
思いは違えど「万人の財産」を守っていきたい情熱は、皆さん共通するものとなりました。我々そして我々と直接的間接的に係わった人々には、この活動を通じ単なる懐古趣味や興味本位でなく、歴史、風土的背景を読み解き再生する姿勢が培ったと思います。ひとつのプロジェクトを曲がりなりにも成し遂げたことは実績となり体系化することで、更に多くの新しい賛同者が集い、みんなでまちなみを保全していくことになります。
多くの課題とこれからの展望
しかしファンドとボランティアによる古民家再生の手法は、多くの課題を残しています。資金調達は、ファンドなのかバンクなのか。ボランティアの力なくして経費は生まれない。次期購入物件の資金確保のために係わるプロとボランティアのバランス。携わる者のモチベーションの維持。地域住民の理解を得ること。購入希望者へのダイレクトな情報提供。購入者の建物活用に対しての条件付けをどうするのか。再生する建物の重要性や緊急性・アピール度など、多方面から検討しなければならない項目、タイミングが分かりました。
反面、この活動の可能性も改めて知らしめることになりました。今は、町屋を中心とした事業に限定していますが、今後はもう少し大規模なまちづくりにも寄与できるのではないかと思われます。集落全体の活用や、売却だけでなく修理して活用し収益を上げることなど、フレキシビリティを持って取り組んでいくことを我々メンバーでは、話し合っています。
才本謙二 (才本建築事務所)
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