前回、塩辛い味・『鹹(かん)味』と『腎』についてお話しました。今回は苦い味・『苦味』と関係する『心(しん)』についてのお話をします。
『良薬口に苦し』
『苦味』といえば、「苦い経験」、「苦々しい思い」、「苦虫を噛みつぶしたような顔」とか言葉の表現をみると苦味は一般に良い表現に使われない味のようですね。それもそのはず、苦味は人の味覚において非常に敏感でなんと甘味の約1000倍、つまり1000分の1のほんのわずかな量でも苦味を感じてしまいます。また、年齢が若いほど敏感な傾向があり少し苦味のあるピーマンを嫌う子供が多いのもそのためでしょう。東洋医学で苦味に分類される飲食物は、ビール(ホップ)、レバー、レタス、苦瓜、お茶、コーヒーなど、また新芽のタケノコ、フキノトウ、そしてアクのあるほうれん草、春菊などがあります。そして、『心(しん)』の形の物、たとえばラッキョウ、銀杏、びわなどもこのグループに入ります。苦味の働きには、『乾燥する』働きと『堅くし排泄する』働きがあります。前回述べた『鹹(かん)味』の『潤す』、『柔らかくし下す』働きの反対の働きがあります。このほか苦味には熱を取る働きもあります。
『苦味は熱を冷ます』
苦味に関係の深い臓腑は『心』です。『心』は夏によく働きます。適当に運動して発汗することが大切です。ここでいう東洋医学的『心』は、西洋医学でいう解剖学上の『心臓』だけを指すのではありません。『心』は血を生じ、情緒の作用・神(人の精神意識と思惟活動を指す)を蔵すると考えられていました。『心』は他の臓腑と違い漢字に体を現す月(にくつき)が唯一ない臓腑です。これは『心』が心臓の象形文字であり、文字にも特別な力(般若心経)があると考えられています。『心』は、陽中の陽の臓腑といわれ、陽気が集まり易い臓腑です。平たく言うとオーバーヒートし易いと言えます。心臓に持病のある人は、陽気の多い夏に発病し易いので気をつけてください。動悸、息切れなど比較的起こりやすいのは熱い夏です。そんな時、ゴーヤなど苦味の物を食べると熱を冷まし身体に良いです。暑さに弱い人は、痩せている人より太っている人ですよね。また、汗っかきでもあります。発汗して冷やしているのでしょうが、心臓に負担があるのは間違いありません。『心』が弱っているのかもしれません。そこで『苦笑い』をしている方、苦味を補ってください。夏にビールが美味いのは、暑いからです。でも、適量を超えるとアルコールの『辛味』が勝ち、熱に変わります。程々にして健康に気をつけ『苦み走った』いい大人でいましょうね。
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