前回で終わりだと思ってほっとしていたところ、「もう少し続けて」という編集者の煽(おだ)てに乗って、もう暫く「住まい」について書くことになりました。宜しくお願いします。
今回からは、現在進行形の現場について書きたいと思います。篠山市(旧西紀町)で茅葺民家のリニューアルを行なっています。三田市に住んでおられるご夫婦とお母さんは、毎週末篠山へ里帰りされていました。今年ご主人の定年を機に、実家で第二の人生をゆったりと過ごそうという実に羨ましいお話を伺い、計画はスタートしました。当初離れ座敷と最近増築されたLDKを残し、茅葺の主屋(おもや)を取り壊して小さな寝室を新築したいというご要望でした。
主屋は確かに東側に接近する山からの湿気や日陰の影響で、構造体の腐朽が見受けられましたが、その他の躯体部分については立派な材料が使われていて、このまま解体するのは忍びないと感じました。計画は、ご要望通りの解体し新築するパターンと、主屋のリニューアルパターン(黙って勝手に図面を描きました)の2案を提示し、コスト比較や主屋の持つ意味を説明したところ、本当は残したかったとのことで、古いのでもたないと判断されていたようでした。また現在の生活にそぐわないのではないかと漠然と思われていたようです。コスト的にもメリットがあることから、残す方向で計画は進みました。計画は、主屋に悪さをしていた東側の山の湿気を防ぐ目的で、床下全面に防湿コンクリートを打ち、東側の排水を整備し通り土間を設けました。さらに山を借景にすることにしました。どの部屋からも山が望める掃き出し窓には古い建具による二重窓、その他の障子は両面張りして断熱障子として篠山の過酷な寒さの対策をとりました。
工事が始まると、ご主人が大変になりました。天井を張って要らなくなった煤(すす)竹を再利用するための洗いと磨き作業、屋根裏に上がっての建材探し、一番大変だったのが借景にする山の整備です。石の積み替えや堤の切り下げ、下枝のはつりや山の掃除、雪の中の作業は、誰にでも出来るものではありません。ニコニコしながら作業をされているのを見ると、家が残る喜びとは、計り知れないものがあると思います。