住宅を環境抜きには、考えられません。設計を始める場合、周辺の環境調査と敷地分析から入ります。例えば、街の状況がどうであるのか。
住宅地・商業地または田園地域なのか。歴史的に街がどう形成されたのか、過去に大きな災害がなかったのか。デザイン的要素は何かなど。敷地の状況に関しては、道路(幅や傾斜)、側溝、塀、樹木の位置など。
住宅の住み易さを左右する周辺環境については、隣の建物の位置や高さ、窓扉の位置、騒音、臭気などを調査することになります。
方位を確認して、風向そして十分な採光が得られるかを調べます。建物の計画は、上記に挙げた様々な要素について調査し、いかに建物に反映出来るかがポイントになります。もうひとつ大事なことは、新しく計画した建物が、隣接する建物または、町に対して逆に影響を及ぼすということも忘れてはならないことです。
そして、環境をポジティブに捉えるのも設計においては、大事なことです。敷地周辺のシンボルになるものや軸となるものを探し、建物の基準にします。また、素晴らしい景色があれば北側であろうと大きな開口を取ったり、壁を切り取ってピクチャーウィンドーにしたります。日本家屋は古くから前栽を造り、座敷や縁側から自然を楽しむことを積極的にやってきました。自然(環境)を慈しむ文化は、自然との共生の精神が育んだものだと思います。
「吹き抜ける家」は、まさに風景そのものを大胆に取り入れています。多紀連山を毎日見て育った家族は、日々変化する山と会話を続けています。
たまには雨でけむり山が見えないのもこれまた良いですよとご主人は微笑みます。多紀連山を眺めるための北側と採光をたっぷり取り入れる南側の大きな開口の間を、たんばの気と景色が芳しい乙女の髪のような甘い香りを残して吹き抜けていきます。自然に近く暮らす家族は、大らかで明るく心も吹き抜けています。