前回は、丹波の春の山々を彩るコブシのつぼみ『辛夷』についてお話しました。今回は『決明』=『目を明らかにする。』と目に良い薬草だと生薬名に名づけられている『決明子』、別名を『草決明』(ソウケツメイ)についてお話します。ちなみに、海で取れるアワビの貝殻を生薬名で『石決明』(セキケツメイ)といい、これもまた目に良いとされています。
『決明子』はエビスグサ、エビスグサは『外国の草』という意味
ケツメイシといえば、現代ではヒップホップ系の音楽グループを連想される人もあるかもしれませんが、もともとは『決明子』と書き、漢方薬に使用される生薬の名前です。熱帯地方に分布するマメ科の低木性植物、コエビスグサまたはエビスグサの種子を『決明子』といいます。日本で主に栽培されている決明子は北米原産のエビスグサで、中国で決明子というと熱帯アジア原産のコエビスグサの種子で、沖縄でしか栽培できません。
民間療法でハブ茶の原料として使われ、便秘症や高血圧症、高脂血症などに効果があるのでメタボリック症候群の方などにはお勧めですが、下痢をしがちな人や低血圧の人は飲まないほうがよいでしょう。成分的にも、降圧作用、利尿作用、コレステロール低下作用、緩下作用などが報告されています。
目の病気によく使われる『決明子』
漢方では、明目・利水・通便の効果があります。特に、眼科によく用いられ、眼の充血や痛み、視力障害、夜盲症などに使われます。
特に、この決明子を使った漢方処方を用いて、目の難病でアメリカでは失明率がトップ日本でも患者が急増している加齢黄班変性症に効果があり、治癒した例を私は何例か持っています。黄斑変性症は、目の網膜の中で最も解像力が高い黄班の組織が、加齢に伴って変化を起こし、視界の中心部が見えにくくなっていく疾患です。治療はビスダイン療法という光学物理療法(PDT)を用いて、非熱レーザーで新生血管の進展を退縮させ、視力を維持するというものですが、病気の進行は食い止めても視力の回復は望めません。
この10年で患者は倍増し、最近、特に心当たりもなく、原因不明で、加齢というにはまだ早い30〜40代の若者に急増しています。一昔前なら、この病名を宣告されると、失明を覚悟し、手に職をつけるためにマッサージを習得にと、転職など人生を大きく変える病気でした。それが身近な薬草、『決明子』を配合した漢方薬で治療できるなんて、患者さんにとっては、本当に『決明』のごとく『目を明らかにする』一筋の光が見える薬草です。
それにしても、昔の人は、名付ける時からその物の本質的な部分をとらえていたのかなと思うと、先人の知恵にはつくづく頭が下がりますね。
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