前回は、丹波名産の大納言小豆をアズキ・生薬名『赤小豆』として漢方薬の立場から取り上げ、ご紹介しました。黒豆、山の芋、大納言小豆と他にも、丹波にはまだまだ名産品があります。食品としてではなく、生薬として漢方薬に汎用される、それこそ世界一の品質と称される『丹波黄連』です。
中国へ輸出されたこともある日本の野生種の黄連
黄連は日本の本州以南に自生するキンポウゲ科の常緑多年草で、薬用部は根茎を使用します。中国にも四川、湖北、陝西(センセイ)省などで栽培されている黄連をはじめ三角葉黄連、峨眉野連、雲南黄連がありこれが其元植物とされています。根は珠(タマ)を連ねたように短く節くれ、折ると断面が濃黄色のため黄連の名がありますが、加えて少し赤みがかかり橙黄色になるほど上質で、丹波黄連は見事にその色をしています。
暗いほんの少しだけの木漏れ日のある山林樹下にひっそりと自生し、漢字がまだ入ってこなかった頃の古い日本では、黄連のことをカクマグサとか、ヤマクサと呼んでいました。貝原益軒は「大和本草(やまとほんぞう)」(1708)で「日本の黄連性よし。故に中華、朝鮮にも日本より多く渡る。中華の書に日本産黄連を良とす」と述べ、ほとんどの生薬が輸入されるなか、黄連が輸出され良質であったことを記しています。
整腸作用、抗炎症作用、清熱作用
黄連の主成分はベルベリンです。苦味がつよく、抗菌作用や整腸作用があり、昔は、黄連を流行性疾患による熱病、熱を伴う下痢、下痢のための食欲不振、流行性結膜炎、ただれ目、中風、小兒鬱熱(うつねつ)などに使用していた記録があります。実際に抗菌スペクトルはかなり広く、赤痢菌に対する抗菌作用は最も強く、化学療法剤のサルファ剤より勝っています。このほか黄色ブドウ球菌・チフス菌・大腸菌・百日咳菌・レンサ球菌なども明らかに抑制する働きがあります。また、抗ウイルス作用で多くのインフルエンザウイルスを抑制する効果も報告されています。抗生物質がなかった昔、かなり重宝された生薬だったことが想像できます。黄連と甘草を一緒に煎じると甘草のグリチルリチンなのかベルベリンと化学反応を起こし整腸作用として常在菌を正常にする働きがあるようで、食べ物でアレルギーの出るアトピーや蕁麻疹(ジンマシン)にも効果があります。
世界に誇る丹波黄連の復活を!!
丹波黄連は数年前まで山南町で栽培されていましたが、残念なことに、現在は種を保存するのみの試験栽培だけしかされていません。中国黄連との価格差や収穫までに5〜6年かかる手間、生産者の高齢化、後継者問題等ですが、問題の本質は本物のよさを使いこなすことの出来ない漢方医(保険制度も要因)、製薬メーカー、漢方専門薬局にあると思います。私たちの手で、世界の宝『丹波黄連』を是非復活させましょう!!
トップへ