前回は『桂枝』を取り上げ、シリーズとして漢方薬に使われる身近な薬草・生薬(しょうやく)をご紹介しました。第三回目は芍薬(しゃくやく)。古くは「?約」と書き、美しく好ましいの意味でした。
『立てば芍薬、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合の花』
美人を形容する言葉ですが、若い人には馴染みがないかもしれませんね。芍薬も牡丹も同じボタン科の植物で花も見分けがつかないくらいそっくりです。ですからこの言葉は二つの花を見分けるために、植物の特徴をうまく表現した言葉です。芍薬は多年草で枝分かれせずまっすぐ立ち花開くのに対して、牡丹は落葉低木で枝分かれしやすく横張りの樹形になり、花も古くから花の王、花の富貴とたたえられるくらいどっしりとした大輪であるところからそういわれます。ちなみに百合は、細い茎に大きな花がつくので風に揺れることから「ゆる(揺)」、それが変化して百合になりました。歩く姿は…は差し詰め柳腰のモンローウォーク?というよりしゃなりしゃなりというイメージでしょうか。
学名のPaeonia は「癒し給(たま)う者」の意味で、ギリシャ神話の医の神「パイオン」
芍薬は古名『出雲風土記』(733年)でエビスクスリと呼ばれエビスは外国、唐の国の意味ですから、外国から来た薬という意味です。古く牡丹と同じく中国から渡来した植物で薬として使われていました。
ギリシャ神話にも医の神「パイオン」が、オリンポス山から採ってきた芍薬の根によって、黄泉(ヨミ)の国王「プルート」の傷を治した…。とあります。つまり、芍薬は死者の国の王の病も治すほどの薬草であるということです。
芍薬の薬用部位は根っこです。根を太らせるために、あの美しい花のつぼみは全部摘み取ってしまいます。香りのよい花なのでもったいないですが、その香りが根に宿るような感じもします。冬には地上部が枯れますが、植え付けから4〜5年で肥大した根を用います。
芍薬は赤芍(せきしゃく)と白芍(びゃくしゃく)に区別されます。古くは花の色(赤・白)で分けていたこともありましたが、通常は外皮をつけたまま乾燥したものを赤芍、外皮を取り除いて乾燥させたものを白芍といいます。中国では栽培品を白芍、野生種のものを赤芍とし、そのため、産地により杭州産、東陽産などは白芍、内モンゴル産のものを赤芍としています。中医学では白芍に補血・止痛作用があるのに対して、赤芍には清熱・活血作用があるとしています。古法である日本漢方でも、赤芍は、白芍と牡丹皮(ぼたんぴ)(清熱・活血作用)との中間的な位置にあるものとして血の滞りに使用します。しかし、現在の日本薬局方では赤芍は芍薬の規格に適合しないので認められておらず、白芍のみを芍薬として用いています。科学を過信し、生薬を既知の成分だけで論じ、古代からの延々たる古人の経験を否定、無視することはせっかくの財産をどぶに捨てることにならないでしょうか。『温故知新』謙虚に学ぶ姿勢が必要だと思います。
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