前回は『桑』を取り上げ、シリーズとして漢方薬に使われる身近な薬草・生薬(しょうやく)をご紹介しました。第二回目は桂枝・桂皮(肉桂)、なじみのある名前ではニッキ・シナモンです。
京都の『八つ橋』の香は肉桂(ニッケイ)どすえ
香り高いシナモンティ、人気のシナボンという洋菓子や伝統の八つ橋、昔懐かしいニッキ水、この生薬は私たちの身近に薬料、香料として広く使われているので、皆さんもよくご存知でしょう。桂枝は中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木、ケイ(肉桂Cinnamomum
cassia)の柔らかな若枝です。桂皮はケイの樹皮で、樹齢6〜7年の比較的若く、樹皮の薄いものをさし、肉桂は樹齢10年以上の厚みのある樹皮を指します。どれも香が濃厚であるものが良品とされます。ちなみに、お菓子や料理によく使われるシナモンはセイロンケイシです。
中国医学では、桂枝と肉桂を使い分けます。体表など比較的浅い部分や浅い疾患には枝の桂枝を使い体表を温め、体内の比較的深い部分や深い病には体内を温める肉桂を使います。
私は、桂枝・桂皮・肉桂を味で使い分けます。比較的辛味の強い中国の広南(カンナン)桂皮は、風邪の初期に使う桂枝湯、葛根湯、麻黄湯などの表証(体表)の強い時の薬味として使い、これに対し比較的甘味の強いベトナム桂皮は、小児の腹痛の小建中湯や胃腸薬の安中散、お年寄りの八味地黄丸などの裏証(内臓)を温める時に使います。
桂枝の5つの作用
@ 発汗作用 汗を出す作用のことですが、不思議なことに組み合わせる生薬によって効果が異なります。麻黄と配合すれば発汗作用を促進し、芍薬だと抑制します。解熱効果
A 止痛作用 関節痛、筋肉痛、腹痛などに用います。胃が弱く冷えやストレスの痛みなど
B 利水作用 むくみや動悸・めまいなどに用います。
C 温通作用 血行を促進して、手足の冷え、腹痛、生理痛などや失調を改善します。
D 鎮静作用 自律神経失調状態や不眠、神経衰弱などに用います。
この他に、抗アレルギー作用や抗血栓作用などが報告されています。
以前7月号でお話した鹿児島県にある『県民の森』の薬草園の門をくぐって一番日当たりのいい広場の真ん中に大きなケイの木がその枝を目一杯広げ、太陽の光を力一杯受けながら立っています。漢方を学ぶ時の基礎、古典の『傷寒論(しょうかんろん)』の最初に出てくる処方が、この桂枝を君薬(中心の薬)にした桂枝湯です。病の始まりは東洋医学では6段階ある中の太陽病位からです。未病が漢方の極意なら、数多くある桂枝湯類の働きを知ることは漢方を学ぶものにとって『始まりであり終わりである』といった最も重要なことになります。お菓子やケーキにたくさん使われている桂枝・桂皮が実は大変重要な生薬です。なのに、医薬品原料に使われる生薬より上質だというのは、何処か間違ってますよね
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