今回からシリーズとして、漢方薬に使われる身近な薬草・生薬(しょうやく)についてお話していきたいと思います。第一回目は桑です。
「♪山の畑の桑の実を 小かごに摘んだは まぼろしか♪」
皆さんご存知、三木露風の童謡赤とんぼの2番の歌詞です。歌ではよく知っていても実際に食べたことのある人は昔に比べ大変少ないのではないでしょうか。私も桑の実を食べた経験は今年の5月中旬に、中国は新疆ウイグル自治区に行ったとき、街路樹として植えてある桑の木から実をゆり落として食べたのが初めてでした。日本では桑はおもに養蚕用に栽培され、毎年枝ごと葉を刈り取るため低木のイメージがありますが、自然状態では樹高は10mに達します。タクラマカン砂漠の南、崑崙山(こんろんさん)の北側のウイグル自治区皮山県の少数民族は厳しい自然環境にもかかわらず長寿で有名で、100歳以上も多く、中には120歳の最長老もおられたそうです。その秘密を新疆科学院と新疆医学院が合同で調査をしたところ、この地域には桑の木が多く植えられ利用されていたということです。シルクロードの南ルートとしても重要な地域で、昔から養蚕も盛んであったようで人々の暮らしに深くかかわってきました。桑を利用した養蚕の歴史は大変古く、殷の時代(B.C.1751〜B.C.1023)の甲骨文字に桑の葉の上に蚕をかっている字があります。
桑の不思議な力
桑は薬用に使用する部位は多く、桑の葉は(桑葉ソウヨウ)桑の実、(桑椹ソウジン)桑の枝、(桑枝ソウシ)桑の根皮、(桑白皮ソウハクヒ)という生薬名でほとんど無駄なく使用されます。桑葉はお茶として、フラボノイドの抗菌作用や他の生薬とまぜて風邪の解熱、頭痛、目の充血、ダイエットなど用途は数多くあります。桑椹は熟した実の紫紅色で想像がつくように、今話題の血液に良いポリフェノールや目に良いアントシアニンが多く含まれ、ビタミンやミネラルも驚くほど多く、必須アミノ酸もバランスよく含まれています。よって血分を補う補養薬として、また補腎として老化防止に使われています。桑枝は、主に関節の痛みや四肢のひきつり、浮腫などに用います。桑枝だけを濃く煎じて砂糖と混ぜた桑枝膏は関節痛や麻痺に外用で使います。桑白皮は漢方では最もよく使われ、止咳作用として咳嗽や喘息に用います。気管支炎や気管支喘息などで咳嗽、喘息症状が続く場合には、麻杏甘石湯に桑白皮を加え五虎湯とします。小児の気管支炎や喘息にはさらに二陳湯を加えます。この適応症はとても多いです。特に小児喘息は漢方薬できちっとあわせれば治り易く、体質改善にもなり発作を止めるだけでなく本当の意味で喘息を治して行きます。
雷がなると昔は蚊帳(かや)を釣り、その真ん中に逃げ込んで、雷が落ちないように「くわばら、くわばら」と唱えました。これは雷神が桑畑を嫌いそこには決して落ちないという言い伝えからです。雷神も恐れる桑の木には私たちの健康を守ってくれる不思議な力があるのかもしれませんね。
トップへ