続 丹波包丁日記

〜 とろろ豆腐 〜


 

 

 

 


写真・文章

丹波市山南町にある日本料理・スッポン料理の
お店「茶寮ひさご」店主 真鍋馨様ご提供

 

 今は新暦なので暦と本当の季節が大きくずれている。水無月の本当の意味は、読んで字の如く、雨が降らずに水が無い頃のことだ。本当なら梅雨明けの7月下旬から8月にかけての一年で一番暑い時季をいうのだが、今の暦だと、一番雨の多い梅雨の季節の6月が水無月となる為にまるで逆の意味になる。本来なら夜空に満天の星が光り輝く七夕が、梅雨空で天の川が見えないのはとても残念なことだ。日本人にとって大切な暦が、いい加減なことになっているのは許されないことだと思う。

  さて、一年で一番暑いこの季節。料理屋にとっては、お客様の体調や食欲が落ちているので献立には一苦労する。とにかく暑いときなので、突き出しには、胃に負担の少ないつるんとしたものや、さっぱりしたものが喜ばれる。お菓子でも、夏にはゼリーや寒天を使った涼しげなものや蕨もちなどが多いのはそのせいだ。うちでは毎年この季節には、「とろろ豆腐」や「琥珀羹」という料理を作る。今回は、とろろ豆腐を紹介する。これは、つくね芋や長芋を卸して寒天やゼリーの出しで固めたもの。これをよく冷やしたギヤマンか陶磁器の器に盛り付けて、出しと山葵を添えて出す。盛夏の献立としてはうってつけのものだ。うちでは、とろろに生の水前寺海苔を混ぜて固めて出来たものに、「じゅんさい」をあしらって供するが、イクラや雲丹などの口溶けのよいものを天盛にしてもよい。

  この料理は、形や材料、作り方に至るまでシンプルだが、料理の温度管理と合わせ方に職人的な技術が要り、上手く作るのは容易ではない。これを旨出しとともに一口食すると、脳天から夏の暑さがスーッと引いていくのがわかる。

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